高齢化社会を迎えて

 日本に生活するヒトも動物もはっきりと高齢化社会を迎えたと言えるでしょう。イヌやネコの寿命が伸びたのは飼い主さんの深い愛情はもちろんですが、良質のフードができたこと、ワクチンやフィラリアなどの予防と獣医療の進歩、そして室内飼育が一般化したことが大きな要因と考えられます。

 その一方で、これまで伸びてきた犬猫の寿命もここ数年はほとんど伸びていません。たぶん寿命の限界に近づいてきたのだと思います。これからは「いかに長く生きることができるか」を考えるより、「いかに良く生きることができるか」を考えて生活設計を立てる必要があるのではないでしょうか?

 高齢化社会を迎えるにあたり、私は次の3つを提案いたします。

 

  1. 老化現象を理解する

    • 老化のしかたは動物それぞれです。同じ歳なのに飼い主さんより早く走れる子もいれば、飼い主さんに引きずられるように歩く子もいます。 ご自分の犬猫の老化現象がどのように進んでいるか、適確に把握することが大切です。 そうすれば、飼い主さんも老化への恐怖や不快感を取りのぞくことができるでしょう。

  2. 生活の質を考える

    • 老化現象がみられ始めたら、現在の生活が快適かどうかを考えてあげましょう。歳をとると動物たちにもいろいろな手助けが必要になります。動物病院でも、鎮痛剤、サプリメントや漢方薬、マッサージやリハビリ、そして鍼灸まで、老化の程度に合わせた細やかな対応ができるようになりました。 快適な生活の結果、動物たちが長生きできるようになれば一番よいですね。

  3. 動物の介護を一人で背負い込まない

    • 人間の介護もそうですが、動物の介護も飼い主さん一人ですべてをしようとはしないでください。家族の理解と協力が得られることが一番良いのですが、それができない時には、友人に相談することも良いでしょう。動物病院では介護指導が受けられますし、ホテルに預けたり、現在は動物介護施設もできています。悩む前にまわりをよく見回してみることです。必ず手助けの方法が見つかります。

シニア期のポイント

 

「シニア準備期」7〜9歳

 まだまだ動作も活発で年齢を感じさせない頃です。特に毎日一緒に生活する飼い主さんは老化現象を見つけにくいでしょう。何らかの機会をとらえて、動物病院で白内障のチェックや心臓の検診を受けておくと良いと思います。7歳以上の動物の2割は身体検査だけでは異常を発見できないと言われています。血液検査やエコー検査などを行って初めて見つかる異常もあるのです。7歳を過ぎたら、一度動物病院で詳細なチェックを受けることをお勧めします。

 

「シニア期」10〜12歳

それまで一気に駆け上がっていた階段を躊躇するようになったり、台に飛び上がれなくなったり、元気に歩いていて突然転んだり、咳が増えたりといった、「うちの子は歳をとったんじゃない」って感じる症状が見られるようになります。しかし時には単なる老化現象ではなく、本当の病気だったという場合もありますから、すべてを年齢のせいにするのではなく、少なくとも半年に一回、できれば季節ごとに健康診断をしてもらうと良いでしょう。

 

「シニア後期」13歳以上

 歩くことや食べることに人間の手助けが必要になる時期です。細かな体調管理が必要になります。飼い主さんだけでかかえこまないで、早めに専門家に相談することが大切です。特に寝起きも不自由になった犬猫は寝たきりにならないように十分注意する必要があります。お年寄りだからと大事にしすぎるとかえって老化は早く進んでしまいますから、ある程度自分自身で散歩や食事ができるように導いてください。

老化現象とその対処

 犬や猫も人間と同じように歳を取るとさまざまな老化現象が見られます。さらにその老化のスピードは人間の4倍と言われるほど早いので、適切な時期に適切な対処をすることが高齢化対策として重要なのです。

 

 老化によって起こるさまざまな問題に対応する時には、老化現象を「老化」というひとつの病気だと考えると何をしたら良いのかが分かりやすいのではないでしょうか。

 

 たとえば病気を考える時には、1.予防 2.治療 3.ケア の3つのポイントがあります。ワクチンを打ったりフィラリア予防薬を飲ませたりする病気の予防に相当するのが、老化では食事と歯磨き、そしてしつけです。注射を打ったり手術をしたりする治療に相当するのが、サプリメントや精神安定剤、そして鎮痛剤などです。手術後にリハビリしたり、運動量の調節をするケアに相当するのが、マッサージやコルセット、サークルなどです。この3つのうちのどれが抜けても高齢動物の問題を改善することはできません。

犬の認知症:1項目で認知症の疑い、2項目で認知症と判断する

 

1. 夜中に意味もなく単調な声で鳴き出し、止めても鳴き止まない。

2. 歩行は前のめりでとぼとぼ歩き、円を描くように歩く
(旋回運動)。

3. 狭い所に入りたがり、自分で後退できないで鳴く。

4. 飼い主も、自分の名前もわからなくなり、何事にも無反応。

5. よく寝て、よく食べて、下痢もせず、痩せてくる。

 

      (獣医畜産新報 JVM,Vol58 No9,2005年9月号、

       日本犬痴呆の発生状況とコントロールの現況 内野富弥)

 

看取りへの感謝

 しかし、ヒトに永遠の命がないように犬や猫にも永遠の命などはありません。どんなにがんばって介護してもその時はやってくるのです。とても悲しいことですが我々は飼い主として自分の愛犬・愛猫を看取れるという幸せを忘れてはいけません。長く動物病院をやっていると、とても多くの犬や猫の死に直面します。不幸なことに飼い主さんのいない時にその最後を迎える動物たちの瞳は必ず遠くを見ています。決して眼の前にいる私を見てはいません。彼らの目にはきっとやさしい飼い主さんの姿が見えているのだと私は思っています。

 道端で車にはねられた野良猫や飼い主さんがわからないまま処分されてゆく犬達のことを考えると、やさしく頼りになる飼い主さんに巡りあえた動物たちはとても幸せであったことは間違いありません。そんな子たちに、大好きな飼い主さんに看取られて旅立てるという最高の幸せを最後のプレゼントとしてあげてください。